うつと森田療法
うつと一口にいっても、うつ状態(抑うつ状態)、うつ病、反復性うつ病、難治性うつ病、躁うつ病のうつの時期、抑うつ神経症など、その種類は様々です。精神病から正常な感情まで、すべてをうつと現代では呼んでいます。病名から通常の心の状態まで表す、非常に範囲の広い言葉です。そのうつと森田療法の関係を述べたいと思います。

森田療法の創始者である森田正馬医師は精神科の医師であったので、多くの精神病患者の治療にあたっています。今でいう精神病のうつ病にあたる抑うつ病という病名が著書に出てきますが、森田療法の対象とは考えていなかったようです。森田医師はいわゆる神経症の本態を発見しましたが、それと精神病の本態は異なるということからだと推測されます。

森田医師の原法である森田療法は、その適応範囲が狭く全体から見れば、一部の人のみが森田療法の適応対象となります。いわゆる神経質で生の欲望(向上心)が強く、その反面不安も強いタイプの人です。このタイプの人が神経症に陥り、森田療法を知り体得することで、今までマイナス方向へ注がれた努力が、プラス方向に向かうので、大きな治療効果を発揮したのです。

森田医師が昭和十三年に亡くなり、その後森田療法を継承した医師、元入院者の方たちが森田療法を広めるなかで、現代の幅広い森田療法となっていきました。森田療法は森田医師の時代も、現代も精神病は適用対象外です。ただうつに関しては、精神病、神経症ともにあり、また誰もがなる心の状態であるので、適用できる場合が多くなりました。

うつで適用できる場合というのは、脳の器質的な異常がないタイプです。例えば脳の器質的な異常のある、認知症にうつを併発することが多いですが、その場合のうつは適用対象外です。また長年の過重な労働で、心身ともに疲れ果て、落ち込みが強くなりうつ状態となるような場合は、脳の器質的な異常ではないので適用対象となります。



もともとうつ状態という心の状態は、自然な感情であり、否定するべきものではありません。この感情があるから、私たち人間は自分の心身を守ることができるのです。仕事や勉強、その他の活動でも度を越えて、頑張り過ぎると、自然とある時点で気分が落ち込んできます。やる気も失せます。

この状態を一般に、うつ状態と呼んでいますが、そこで度を越えて、頑張り過ぎた行動を一旦ストップさせます。そうしないと体を壊し、また心を破たんさせます。うつ状態がストップをかけるから、心身が守られるのです。不安という感情と似た効果を発揮します。

不安については、よくいわれることですが、不安が全くないというのはブレーキのない自動車のようなもので、暴走し大変危険です。不安というブレーキがあるから、適切な走り方ができるのです。同様にうつ状態というブレーキがあるから、行動が適切に行えるのです。

また肉親の死に直面し、うつ状態になることも多いですが、これも基本的には上記と同じで、その人の心の破たんを防いでいるのです。このようにうつ状態は大変役に立つ、自然な感情ですが、これも度を超えると問題となります。

何か月あるいは何年とうつ状態が続いてしまうと、家庭生活も、社会生活も破壊されてしまいます。私がうつ状態が強いころ、うつ病の集りに何度か参加したことがありますが、女性の場合は少ないですが、男性がうつ病になり、仕事ができなくなると離婚に至るケースが多かったです。これが家庭生活、社会生活の破壊であり、当事者にとっては大きな問題となります。



このような事態に至る前に、対処する必要があります。一般にうつ病の治療としては、薬物療法が主流です。抗うつ剤や、精神安定剤、抗不安薬などを処方されることになります。心理療法を併用する場合も多いです。カウンセリング、認知行動療法、そして森田療法などです。

森田療法でうつに対処する方法としては、基本的には神経症と同様で、うつという感情を目の敵にせず、自然な感情の一部であるという事実を認め、目の前のなすべきことを、なすという方向になります。ただうつが非常に強い初期(急性期)においては、心身の過労状態に陥っていることが多いので、なすべきことが、休養となります。

またうつという感情は、不安と同様にひどく不快な感情で、本能的に避けよう、あるいは早く脱しようとしてしまいますが、そのありのままでいいのです。うつ状態になって、楽しくて仕方がないということはあり得ません。とても苦しいものです。その苦痛は、そのまま苦痛していくことが大事です。

とはいうものの、現実的な話として、どうしても前向きな行動ができない日もあります。そういう日は、とにかく手抜きでもいいから、必要最低限のことはやるという意志が大切です。うつがひどいから、今日は何もできないと決めてかかって、うつに逃避してばかりしていては、よくなる日は永遠に来ないでしょう。ただし急性期は心身の休養が必要です。休養というのは寝てばかりいることではなく、その人にとって何かしら発散できることをするなども含みます。

うつも不安と同じく、なくす必要はありませんし、人間に備わった必要な感情なのでなくせません。深みにはまらず、通常の大きさのうつになればよいのです。落ち込んだ経験のない人などは、世の中にいません。いたらその人は正常ではありません。躁病という病気です。落ち込んだり、元気になったりを繰り返すのが、正常です。

まとめますと、器質的な脳の異常のないうつに対しては、森田療法を適用し治すことは可能ですが、器質的な脳の異常があるうつに対しては、森田療法を適用できません。そして森田療法で治すためには、森田療法や医師が治してくれるという受け身ではなく、自分自身が主体的に取り組んでいく姿勢が重要になります。
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