森田療法とは(概略)
森田療法の創始者は、東京大学医学部卒で、慈恵医科大学の精神科教授であった森田正馬医師(1874〜1938)です。時期としては大正の終わり頃から昭和初期にかけて、完成されました。森田医師自身も神経症の経験があったようです。なお当時は神経症という言葉はなく、神経衰弱などと呼ばれていました。また森田医師自身は神経症のことを神経質と呼びました。

療法完成前、森田医師は神経症治療の、様々な試行錯誤を重ねていました。その頃ある知人の看護師の女性が頑固な神経症で苦しんでおり、森田医師が自宅に招き、単なる診察ではなく生活の中で治療をすることにより神経症が軽快した経験が、森田療法開発のきっかけとなりました。

その後も、研究し努力を重ねて、森田療法は一定の様式をもつ、精神療法として完成されていきました。なお、森田療法という名称は、森田医師自身が命名したものではなく、後の時代の人が命名したものです。当人は余の特殊療法などと呼んでいて、決まった呼び方はありませんでした。



森田医師は自宅を開放し、そこに入院させるというかたちで治療をするようになり、個人差はありますが40日程度の入院で、軽快ないし全治した人が多かったようですが、もちろん治らなかった人もいます。これがいわゆる入院森田療法と呼ばれるものです。

メインは入院療法であり、健康保険のない当時は、かなりの金額がかかったようです。ですから、ある程度社会的に成功している人かその家族が入院していたようです。余談ですが治らなかったと主張する人が、返金せよといってきたことがあり、応じたそうです。

その他に例外的ですが森田医師の著書だけで治った人もいますし、通信による治療(手紙のやりとり)で治った人もいたようです。また入院できない事情の人には往診での治療も行っていたようです。



入院療法の内容としては、私が経験した現代とほとんど同じで、第一期:絶対臥褥(がじょく)期、第二期:軽作業期、第三期:重作業期、第四期:複雑な社会生活期という流れです。その中で森田医師による指導が行われました。奥様や婆やも入院者と接することも多く、当時は家族的な療法であったといえます。

森田医師の指導は、決まった形で行われるのではなく、その時々の作業、生活状況に応じて臨機応変にされていました。神経症の最中の人は、基本的に自己中心的になるので、そういう場合は手厳しい指導もありました。

指導は森田療法の要点にあるような内容が主ですが、大まかにいえば物事の本質(本態)を見抜けということになるかと思います。神経症においていも、うつおいてもその本態を知ることが何より大切です。またここが治る第一歩となります。

また当時、森田医師は著書も多く出版されていて、そこから指導の内容も読み取ることができます。森田医師は分かりやすい例えを使うので、実際読んでも読みやすく、私自身は納得がいきました。そして物事に対する着眼点の鋭さは、類まれであり、現代の医師ではなかなか及ぶ人は少ないだろうと思います。事実唯心(事実こそが大切である)という言葉がありますが、まさに森田医師がそうでした。



森田療法を学び、実践する方法としては、.書籍等から自ら行っていく、.自助グループ・フォーラムなどに入り、仲間とともに行っていく、.通院して日記指導等を通して通院森田療法を受ける(含カウンセリング)、そして.入院森田療法を受けるの主に四つの方法があります。

私はを通して、学び実践してきました。現在は自助グループ等に所属していませんが、実生活こそが学びの場であるので、今なおそこから多くを学び、フィードバックして実践しています。森田療法は単なる神経症等の治療法であるだけではなく、生き方、人生に深く根差しているので、これで終わりというところはありません。

森田療法の特徴としては、なぜ症状に陥ったかを自ら自覚させ、症状をなくそうと一生懸命努力してきた努力方向を、本来その人がもつ欲求・向上欲の方向へと軌道修正し、人生を前進させるところにあります。苦痛・不安をなくすのではなく、苦痛を感じながら不安なままに本来の欲求・向上欲に沿って行動するうちに、苦痛・不安を忘れるのです。

本来の欲求・向上欲に乗っかって行動していくことで、症状という自分の不快な気分に向いていた注意が、自分の心の外側の世界に向くようになります。内向きの注意が外向きの注意へと転換されます。そして気分測定器のような状態から抜け出し、欲求・向上欲を十分に発揮して、人生を向上させていくことになります。



また森田療法の適応範囲は、創始者の森田医師の頃は、神経質という性格特徴を持つ人の神経症だけに限定されていました。しかし、時代の流れとともにその適応範囲も広がり、現在ではうつ病などにも適応されることも多いです。ただ、意志薄弱者(短絡的で、物事を深く考えることができず、暴力や犯罪に走りやすい傾向を持つ人)やヒステリーを持つ人、生来的に怠惰な人などは現代でも適応外です。そもそもこれらの人は症状に陥ることはありませんが・・・。

そして原則としては、森田療法は薬を使いませんが、現代では薬物療法と併用することも多くなってきました。おもにパニック障害やうつ状態が強い場合は、薬物療法と併用して良くなることも多いです。現代の森田療法の薬物療法に対するとらえ方は、例えば足をけがした場合、治るまでは杖を使いますが、この足をけがした時の杖が薬だというとらえ方が主流です。つまり補佐的に使用するということです。
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